シピボ族のシャーマン #1


シピボ族のシャーマンとは?


「SHIPIBO(http://nativesoon.com/shipibo/)」のページでは、シャーマンについて以下のようにご紹介しました。

シャーマン(シピボ語:Onanya, オナヤ)は、神や精霊などの超自然的世界と直接交流し予言や病気の治療を行う存在。薬用植物とその使用方法に通じた「シピボ族の植物療法」の継承者

では、シピボ族のシャーマン(シピボ語:Onanya, オナヤ)は、具体的にどうやって「神や精霊などの超自然的世界と直接交流」し「予言や病気の治療」を行うのでしょうか?


シャーマン「フースティーナ」


ここでシピボ族のシャーマンみずから、集落で果たす役割や具体的な治療法について語っている動画をご紹介します。

女性シャーマン・Maestra(熟練の女性シャーマン)Jastina(フースティーナ、シピボ名:Ninhue Rama) が、シャーマンになった経緯や集落で果たす自身の役割、具体的な治療法を語ったものです。家族と共に、アヤワスカの治療儀礼を行う様子も収録されています。

この映像は、世界中の音楽を収録する映像作家・Vincent Moon*1)によって製作されました[2013年5月]。

 

フースティーナは、約40年間に渉りアヤワスカやアマゾンの薬用植物の経験を積んだ「Muraya(ムラヤ)」で、NATIVE SOONの師匠にあたるシャーマン・アルマンド(http://nativesoon.com/sanin-mai/)の実妹です。フースティーナとアルマンドの兄弟は、長年の間、アマゾンの薬用植物を使って多くの人びとを治癒してきました。

 

Muraya(ムラヤ)とは、シピボ族のシャーマン世界における最高位のヒーラーを意味します。シピボ語で「出会う人」を意味するMuraya(ムラヤ)は、アマゾン先住民の神話世界に登場し、他の次元を旅する存在として描かれます。彼らは、植物を摂取してトランス状態に入ると、自らの姿を目に見えないものに変えたり、一度に2つの場所を訪問したり、あらゆる動物に姿形を変えることができるといわれています。

 

本ブログでは、フースティーナが映像で語る

・シャーマンとしての略歴

・病の治療法

を解説しながら、シピボ族におけるシャーマンの役割や具体的な治療方法をみていきます。特に、後者については、フースティーナが言及するアヤワスカと森の精霊の助けを借りた方法の他に、映像の後半で映し出される「Icaro(イカロ)の複合唱」についても取り上げていきたいと思います。

 


フースティーナの略歴


それでは先ず、フースティーナの略歴をみていきましょう。

映像では、フースティーナ自身がシャーマンとなった経緯を語り出します。

子供の頃、シャーマンである叔父が、重い病気にかかった私を治癒してくれました。叔父は私が回復したのを知ると、知恵を授ける植物「カマロンガ」のディエタ(食餌療法)をはじめるよう薦めてくれました。この植物は、私たちシピボ族が代々伝承してきた薬用植物です。薦めに従って、私は「カマロンガ」の煮汁を1年半飲み、ディエタ(食餌療法)を続けました。通常は、2年かけてディエタが完成する植物です。その後何度もディエタ(食餌療法)をし、私は、癒しの力をもつ薬用植物のエネルギーを獲得するようになったのです。[動画:1:40-2:10]

シピボ族のシャーマンは、家族でその伝統を受け継ぐケースが多く見られ、幼少期からシャーマン修業を始めることが珍しくありません。フースティーナも同様、幼少期よりシャーマニズムの世界観の中で育ってきたことがわかります。

また、ここでフースティーナがいう「カマロンガ」とは、キバナキョウチクトウという植物で、熱帯アメリカに分布する樹高約4-6mの低木です。以下の写真のような菱形の果実をつけ、内部に種を宿します。

橋本梧郎氏のブラジル産薬用植物データベース*3)によると、カマロンガは

学名:Thevetia Peruviana、英語名:Yellow oleander, Lucky nut

樹皮→ 適用法:内服、病気名:膨満、便秘、吐剤

種→ 病気名:蛇の咬み傷(特にガラガラ蛇)

と記述されています。樹皮を内服すると、お腹の病に薬効がある植物です。

 

続けて、彼女は集落における現状の役割をこう説明します。

私は今熟練のシャーマンとして、村を癒しています。治療儀礼で使う神聖な歌・Icaro(イカロ)と植物世界に関する知識を用いて、私は人びとを癒し家族を支えます。[2:15-2:50]

フースティーナは、幼少時代から続けてきた薬用植物のディエタ(食餌療法)を通じてシャーマンとしての能力を獲得し、「村を癒す存在」となりました。シピボ族の集落では、現在も、シャーマニズムに代表されるアニミズムが暮らしに息づいているのです。

 


フースティーナの治療法


映像の中盤からは、具体的な治療法の説明をはじめます。彼女は、先ず治療に使用する薬用植物について語り出します。

これはシピボ語で「Chono(ショーノ, 別名:ルプナ)」と呼ばれる木です。ゼラチンのような質感をした果実の種から、汁を抽出しタバコと一緒に飲用します。それが、”Muraya(ムラヤ)= 偉大なヒーラー”になるためのルプナのディエタ(食餌療法)です。ルプナのディエタ(食餌療法)を完成するには、ひとりで森に入り最低1年間はこの木のそばで過ごす必要があります。[2:50- 3:20]

 

アヤワスカ… アヤワスカは、シピボ族に最初に伝えられた「マスタープラント」です。アヤワスカ茶は、ヴィジョン(視覚)をもたらし患者を癒します。アヤワスカの蔓の力で、私たち人間は目に見えない世界と繋がることができるのです。

先ず、アヤワスカの蔓をすりつぶして苦味を抽出します。それから、すりつぶした蔓をチャクルーナと共に6-8時間、水で煮出します。飲用すると、最初に吐き気を感じ、続いてヴィジョン(視覚)が訪れます。治療儀礼では、これら2種の薬用植物の混合液を使用します。[3:25-4:02]

 

シピボ族の植物観には、「マスタープラント」という概念があります。これは、知恵を授ける植物に対する尊称で、「植物の師匠」を意味します。シピボ族の植物療法において、アヤワスカは「最初のマスタープラント」として最上位の植物であり、治療の基本となる植物です。

シピボ族のシャーマニズムでは、飲んだ人に強烈な吐き気をもたらすアヤワスカとその他のマスタープラントを組み合わせ、病の原因を「吐かせること」で心身を浄化していくのです。

続いて彼女は、アヤワスカの治療儀礼で彼女が共に働く精霊「chaikonibo(チャイコニボ)」に言及します。

 

シピボ族のシャーマンは、アヤワスカの治療儀礼で、「精霊」の助けを借りると言われます。植物に宿る精霊とコミュニケーションをすることで、彼らから病の治療法を教わるというのです。

 

chaikonibo(チャイコニボ)について、NATIVE SOONのアドバイザーのホセは、このように教えてくれました。

Chaikonibo(チャイコニボ)とは、複数の「Chaikoni」のことです。Chaicuni(チャイクニ)或いは Chaikoni(チャイコニ)は、シピボ語で別名「Jone Joni」または「Jishitima Joni」と呼ばれます。スペイン語にすると「Hombre Envecible = 見えない人」を意味します。
フースティーナは、こう語りかけます。
「Chaiconi」は、人間のような見た目をしています。しかし、私たちの目には見えません。風の薬草を飲んだために、人間の目に見えない存在となったからです。Chaiconiは飛ぶことができますが、その姿を捉えられる人はわずかです。
Chaiconiは、森の木々の中に暮らしているので、私たちは彼らを「森の精霊」と呼んでいます。[6:00-6:40]
 
病の特定は、別の次元では難しいことではありません。心理的なことだったり、生まれつきのことだったり、或いは魂に関することだったり… その根元は多様です。
熟練のシャーマンは数多く存在します。しかし、精霊とコミュニケーションができるほどディエタを積んだ人は少なく、彼らは「Chaiconi(チャイコニ)」の助けを得ることはできないのです。[8:13-8:35]

最高位のシャーマン・フースティーナは「chaikonibo(チャイコニボ)」と呼ばれる「森の精霊」と繋がることで、人びとに癒しと気づきをもたらしてきました。ルプナをはじめとする様々なマスタープラントのディエタ(食餌療法)のために、森にひとりでこもるのもそのためです。森の中で、何種類もの植物を摂取し植物と一体化することで、森の精霊たちと実際にコミュニケーションができるようになるのです。

こうして、ディエタを通じ様々な精霊とのコミュニケーション能力を養うことで、アヤワスカの治療儀礼において「神や精霊などの超自然的世界と直接交流」し「予言や病気の治療」を行う。これが、具体的なシピボ族の植物療法です。


治療歌としてのポリフォニー

さて、 最後に、この映像の最終シーンに収められている「アヤワスカの治療儀礼とイカロの複合唱」についてお話ししたいと思います。
治療儀礼中に、フースティーナと他のシャーマンがイカロを重ね合わせて歌ったり、高音と低音を組み合わせた旋律を奏でていることがお判りでしょうか? これがシピボ族特有の「イカロの複合唱」です。
シピボ族のアヤワスカによる治療儀礼では、複数のシャーマンがイカロを交互に歌う部分と同時に歌う部分を組み合わせます。
シャーマンが交互にイカロを歌うとき高音と低音を組み合わせるのは、女性であるアナコンダ(Ani Ronin)の霊と交信し、治療儀礼中に女性の精神にアクセスするためだと言われています。その旋律は、強い男性的な音色とより繊細で高音の女性らしい音色が交互に現れ、壮麗な響きを生み出します。
シャーマンは笹のような葉や鳥の羽根を束ねて作られた扇子のような楽器「シャッパカ」を、扇を仰ぐようにシャッシャッシャッと振って鳴らし、リズムを取りイカロを歌いながら、女性の霊が呼び出されたときに、女性的な甲高い声でとてもに静かに歌い、歌いながらAni Ronin(女性)の霊と一つになります。
このシャッパカは悪い力や患者の負のエネルギーを取り除き、良い「アヤワスカの酔い」を呼ぶための、お清めの大切な道具です。
 
こうした高低音を組み合わせたイカロを複数のシャーマンが同時に歌うことで、シャーマン単独では得ることのできないダイナミックな響きの変化が得られます。このイカロの音程の幅が治癒の振動となり、その効果を高めるのです。 
シピボ族のアヤワスカの儀礼は、この映像と同じプロセスで進められます。各自シャーマンが渡すアヤワスカを飲んで、効果が出始めたと感じるときに(個人差がありますが、大体30分前後で知覚に変化が現れます)イカロの旋律が聞こえてきます。
こうして治療儀礼の参加者は、自身の内面世界と繋がり、シャーマンの助けを借りて別次元への旅を始めるのです。



−参照元−

1) Vincent Moon http://www.vincentmoon.com/

2) 橋本梧郎「ブラジル産薬用植物データーベース」http://www.100nen.com.br/ja/bp/