シャーマンなき現代社会の信じるもののない絆のない世界#1

超自然という空間

 


 1. 森とのつながり


アマゾン熱帯雨林のシャーマンは、近いものとの関係性を観察しそのものに変身してしまう。

ジャガーになったり鳥になって空を飛ぶ。
先住民族を観察しながら、コトバで表現できない身体空間の世界があることを知る。

 

このシャーマンの森とのつながりを拡張した身体空間、身体性は、
時間や空間を超える力をもつ「コトバ」の登場で、現代人である私たちの身体のつながりから離れていってしまった。

 

私たちの身体は、シャーマンと森とのつながりから離れて、地球の環境をダメにしてしまって、その責任をいまとりきれないでいる。
人間自体も人為的な環境にどんどん侵され、汚染され、いろんな薬が必要になり、精神的にも病んでいるのは、人間の身体を狩猟採集時代に置き去りにしたまま、知能部分だけを発達させてしまった結果だと思う。

 

 


2. 超自然との対話


まず最初に、コトバは熱帯林で生まれた。
コトバは人間と森との関係性の中で誕生した。

 

コトバには、見えないものを見せたり、過去のものを現在にもってきたり、逆に未来のことを現在にもってきたり、時間と空間を超える力がある。

神話学でいうならば、コトバは森の神とともにあった。コトバは神であった。

コトバにより人は他人とのつながりを拡張し、他の動物がなしえない空間をつくり出した。

 

超自然という空間。

超自然という空間からは、あらゆる植物や動物、自然が、すべて人間と同じ基底を持つというエコロジーが生まれ、首から上が動物で胴体は人間みたいなのがたくさん出てくる神話の世界があらわれた。

 

これがシャーマニズム、自然信仰。
そうして超自然は、いまに続く認知革命のはじまり。

 

また、こんなことも思う。

人間は自ら考える存在といわれているが、はたして自然自身は考えるのであろうか?
熱帯雨林は複雑な生物間ネットワークがつむぎだす生態系内生物間相互作用サービスによって生きている。
それぞれの植物の命が枯れて、微生物と一緒に土の中で動植物そのものの命に戻っていくことによってささえられ、森は生きている。

生態系の輪廻転生。
西洋的な自然科学や情報科学ではなくて、輪廻転生という考え方にのっとり、自然との調和をはかるべきではないかと私は考えている。

 


 3. 異なった精神と肉体


最近私は、人間に飼育されたチンパンジーやボノボに、いつか遺伝子の突然変異がおこるのではないかと考えている。

 

京都大学霊長類研究所のチンパンジーが、檻のカギを開けて脱走し、そのさいにオランウータンも逃してやったが、義侠心などではなくて、愉快犯的な思考であった、という記録を読んで、考えてみると、チンパンジーの行動を生理的に理解できる思考が人間である自分の中にもあることに気づいたからである。

 

下図:高等霊長類の系統樹 ヒトとチンパンジーが分かれたのは約700万年前でDNA相違率は2%を下回る (Source:『人間はどこまでチンパンジーか』ジャレド・ダイアモンド, 新曜社, 1999)

 

チンパンジーのコトバはまず最初に、人間との関係性の中で誕生するのではないだろうか?
チンパンジーのコトバは人間とともにあった。コトバは人間であったと。

 

ペルーの熱帯雨林でコロナが大流行する中、こんなことも思い出した。

「猿の惑星」というSF映画は、アメリカから打ち上げられた宇宙船が六ヵ月の飛行をへて地球へ帰還すると、そのとき地球時間は七百年後の2673年になっている。
四人の宇宙飛行士がその地球で出くわしたのは、人間のコトバをしゃべって文明生活を送る類人猿(オランウータン、ゴリラ、チンパンジー)と、コトバを失って飼育されている人間たちだった。

 

なぜそんなことになったのかは、感染症の新薬を開発するため実験用に飼われていたオスのチンパンジーがあるとき、変異をおこして人間のコトバをしゃべるようになる。
オスのチンパンジーは策略をめぐらして同じような境遇にある類人猿たちを解放し、自治区をもうける。
その後、人間の世界ではあるウイルスによる感染症が急速にひろがり、人類は絶滅の危機にひんする。
わずかに生き残った人間たちはコトバがしゃべれなくなり、この感染症に抵抗力を持っていた類人猿たちに支配されるようになったという話しである。

上図:Bonobo Language Lexigram, ボノボのカンジがヒトとコミュニケーションをとるときに用いる絵文字

 

そこで、さらにブルーノと呼ばれているチンパンジーの話しを思い出した。
人間に育てられた賢いチンパンジーが大人になり、檻の複数の施錠の複雑で高度なはずしかたを何年も観察して学習し、群れをひきいて施錠をはずして、人間狩りをはじめ、狩猟本能のおもむくままに、追いつめて、人間を捕まえると、もてあそび残虐にゆっくりと楽しみながら、人間の各部をバラバラにして殺していき、そのまま現在でも群れをひきいて熱帯雨林の中に逃げて暮らしている。

こういう事件がアフリカであった。

 

最後に、こういう話しも思い出す。
それは私がひどい鬱になり生きる希望を失って、弱い心にながされて、乞食か泥棒のようになっていたときに、YouTubeでTEDを観たときのことだ。

イヌイット族のある勇敢な男のことを人類学者が語っていた。それは1950年代、カナダ政府が先住民であるイヌイット族に、入植地への移住を強制したときの話。

 

移住を拒否したイヌイット族・オラヤの祖父は、彼の命を心配した家族に武器や道具をとりあげられてしまった。裸一貫になった彼は、北極の猛吹雪の夜に外へ出てアザラシの毛皮のズボンをおろし、自分の手に排便をし、排泄物が凍るにしたがい、それを刃物のかたちにした。大便の刃にツバを吹きかけ、やっと固体に固まるとそれで犬を切りさいた。彼は犬の皮をはいで、その場で引き具をつくり、犬の胸郭をとって、その場でソリをつくり、そばにいた犬に、引き具をつけ、ベルトには大便の刃物をまいて浮氷塊のむこうへすがたを消した。

 

私はこれを観て当時、生命の本質を人間の中にもう一度認め、生きる力と身体性を取りもどした。

 

私はこうやって、少しずつ鬱や引きこもりから脱却していった。

ありがとう。動植物、熱帯雨林、先住民族。

 

Top画像: 快楽の園ヒエロニムス・ボス

参考動画:https://digitalcast.jp/v/13332/