シャーマン修行:ディエタとは
シピボ族がもつ植物療法の真髄に興味があるならば、「ディエタ」を避けて通ることはできません。ディエタは、シピボ族のヒーラーたちの力と知恵の源泉です。
ヒーラーを目指す以外の人にとっても、ディエタをすることで植物の様々な恩恵に預かることができます。
本ブログでは、1)ディエタの概要と目的 2)プラント・マエストロとは 3)ディエタの方法 について記述し、シピボ族のヒーリング体系における重要概念であるディエタを紐解いていきます。
ディエタの概要と目的
ディエタとは、様々な薬効と精神作用をもたらす薬用植物群から1ー2種類を選択し(それ以上の場合もあり)、食事制限しながら摂取することです。師匠によって定められた期間内(最低8日〜複数年)、その植物だけと向き合います。
ディエタの対象となる植物群の中でも、シピボ族のヒーラーたちが「プラント・マエストロ(植物の師匠)」と呼ぶ植物のディエタは、シャーマンの治癒力の源泉です。(写真左:カマロンガ、写真右:ピヨン・ブランコ)
シピボ族のシャーマンは、夢やアヤワスカがみせるビジョンを通じて、ディエタしたプラント・マエストロの世界に繋がります。その世界では、ディエタしたプラント・マエストロが「スピリット(≒ 精霊)」と呼ばれる姿となって現れ、人を治癒するために必要な力と知恵をシャーマンたちに授けるといいます。
そしてディエタに成功した暁には、ディエタした植物がシャーマンの「パートナー」としてアヤワスカを用いる治療儀礼に現れ、シャーマンに治療法を囁きかけるのです。
シャーマンは、このディエタした植物が伝える囁きを「振動」のデザイン(≒ 植物がもつエネルギー)として知覚し、イカロと呼ばれる治療歌に変換します。
植物が伝えるこの治癒の振動エネルギーはKené(クヌー、上記写真の布に描かれるような幾何学模様のパターン)と呼ばれ、植物ごとにKenéのデザインが異なります。
Kenéは、シピボのシャーマンにとって「植物が伝える薬効の楽譜」であり、それぞれの植物が異なる「Kenéのデザイン=薬効の楽譜」をもっていると考えます。
シピボ族のシャーマンはその生涯において様々なプラント・マエストロをディエタして、旋律は勿論、薬効の異なるイカロを獲得していきます。
例えば、「カマロンガ」というプラント・マエストロをディエタすると「カマロンガが伝えるKenéのデザイン=カマロンガの薬効を伝える楽譜」を理解してカマロンガのイカロを獲得する(病の原因の診断・全身の浄化など)、という風に。
以下の映像は、「カマロンガ」が伝えるイカロを歌ったもので、シャーマンごとにその旋律は異なります。
シピボ族のシャーマンとアヤワスカのセレモニーを経験する機会があったら、セレモニーで歌われる「イカロ」に集中することです。もしお気に入りの旋律に出会ったら、セレモニー明けに「なんという植物のイカロですか?」と質問してみましょう。この質問は、そのシャーマンがディエタした植物や修行歴を知るための試金石でもあります。
シャーマンが、イカロを獲得する仕組みの詳細については、以下のブログを参照ください http://nativesoon.com/blog/518/
このように、プラント・マエストロのディエタを通して獲得されたイカロは、アヤワスカのセレモニーで歌われ参加者の心身を浄化・治癒する効果を持つのです。
ディエタの目的は、植物からどんな薬効を授かりたいかによって様々です。シャーマンにとってのディエタの目的は、プラント・マエストロが持つ治癒力を獲得することです。
シャーマンを目指す以外の人にとっては、身体の不調を治癒する、自分の内面と向き合い心の穏やかさを獲得する、植物の教えを学ぶ、などが挙げられます。
プラント・マエストロとは
では、シピボ族のシャーマンたちの治癒力の源泉であり私たちにエネルギーと知恵を与える「プラント・マエストロ」とはどのような植物なのでしょうか?
「プラント・マエストロ」は、シピボ族のヒーラーたちが長い年月をかけて活用・ディエタしてきた薬用植物群の中で、特別なエネルギーと知恵を授ける植物を指します。プラント・マエストロは、種類・要素・与える効果・影響の強さによって以下のように分類されています。
🌱 種類の違いによる分類
最も顕著な分類の違いが、樹木か草木かの違いです。前者はより強いプロテクション(守護)の力をもち、後者はより強い癒しの力をもつと言われています。(写真左:ルプナ、写真右:ピリピリ)
🌱 要素の違いによる分類
植物が持つエネルギーの要素に応じて「水」「火」「風」「地球」の4つの分類があり、
シャーマンはこれらの力をバランスよく備える必要があると考えられています。
例えば、風に属する「ニウラオ」と呼ばれる植物をディエタすると、シャーマンは風の力を使えるようになって、アヤワスカのセレモニーでの浄化に用いられます。
🌱 効果の違いによる分類
効果については、プラント・マエストロが教える世界観によっても分類があります。例えば「愛を教える植物群」はシピボ語で「ワルミ」と呼ばれ、Piri Piri(ピリピリ)・sigame sigame(シガメ・シガメ)・Kune Rao(クヌー・ラオ:写真下)などが代表的です。これらの植物は、プラント・マエストロが教える世界の中でも、「愛・友情・慈悲」に特化した世界観を語ると考えられています。
🌱 影響の違いによる分類
影響の強さは、ディエタしたプラント・マエストロが与える酔い心地の強さを指しています。前述した「ワルミ」に該当するマエストロ群は、身体に摂取したときの酔い心地が緩やかで、仮にディエタに失敗しても大きな影響はありません。
一方、NATIVE SOONがディエタした「カマロンガ」や「ルプナ」などのプラント・マエストロは、摂取するとすぐにその薬効と力を自覚することができます。これらは、より広範な世界についての教えを授けてくれる一方で、ディエタに失敗すると修行者に逆作用をもたらす可能性があります。
このように、プラント・マエストロには、複数の違いがあります。特に、影響の強いものをディエタする際はリスクを伴うため、経験のあるガイド選びが極めて重要になってきます。
ディエタの実践方法
最後に、これら植物のディエタ方法について、1)ディエタする植物の選択方法 2)植物の摂取方法 3)ディエタのルール の3点について記述していきます。
1)植物の選び方
植物の選び方には、①植物が修行者に知らせる ②師匠が授ける ③自らの直感や獲得したい効果で選ぶ の3つがあります。このうち、①・②については、経験者向けの選択方法となる場合が多く、通常は③の方法で選択します。
③の場合、例えば、愛を学びたい、人を癒す力を獲得したい、ビジョンをみたいなど、ディエタの目的を師匠に伝えます。或いは、植物の名前を聞いたり実際に見て感じた直感から決める方法もあります。
2)植物の摂取方法
植物の摂取方法は、植物や師匠によっても変わってきますが、大きく①飲む②浴びる③吸う④目に刺す⑤鼻から吸引するなどの方法があります。樹液・葉・根の部分・樹皮など、植物に応じて、様々な箇所を使用します。(写真左上:カマロンガ・ネグロ、写真右上:カマロンガ・ブランコ、写真左下:ルプナ)
決められた期間、これらの方法で植物を身体に浸透させながら、植物の進捗具合はアヤワスカのセレモニー(師匠によって頻度や回数が異なる)を通じて確認します。確認の上、師匠は修行者がディエタしている植物の精霊を呼び出し、その植物の世界を開いていきます。
詳細は、以下ディエタの体験記を参照ください。
カマロンガのディエタ体験記:http://nativesoon.com/blog/1198/
クヌーラオのディエタ体験記:http://nativesoon.com/blog/1509/
3)ディエタの規則
ディエタとは、「ダイエット」という意味です。その言葉が示す通り、ディエタ中は食事制限を中心に様々な規則に従う必要があります。
細かな規則は学ぶ師匠の方針で変わりますが、基本原則として代表的なものには、食事制限・外出制限・性行為の禁止・石鹸類の使用禁止などがあります。
このうち、最も厳しい食事制限については、ディエタ中以下の制限に従う必要があります。
・1日1食(基本、昼。2食の場合もある)
・塩、油、砂糖、香辛料、乳製品など一切が禁止
・食べられるのは、米・魚(歯がないもののみ)・青バナナ。鶏肉がOKな場合もあり
これらの制限に従う目的は、ディエタする植物の浸透をよくし、植物の薬効と繋がりやすくするためです。
このようにディエタをして、心身を浄めプラントマエストロを摂取し、薬効・植物の世界に意識を集中して何年も修行することで、植物の精霊が修行者の元へやってくると考えられています。
以上みてきたように、ディエタはシピボ族がもつヒーリング体系の中心を成す重要な修行であり、私たちヒーラー以外の人間にとっても多くの効用をもたらします。
植物のパートナーをつくること
先日逝去したシャーマン・オリビアの甥であり若き修行者のマルコスは、ディエタについてこう表現しました。
“ディエタは、植物の友達や恋人をつくるようなもの。友達や恋人をつくるんだからコミュニケーションが必要なんだ。いきなり友達になろう!っていっても、植物も驚いてしまう。時間をかけて、好意を伝えないと。”
熟練のシャーマンは植物の世界に「恋人」を持っていて患者を治療する助けを借りるといいますが、ディエタした植物は、1度身体に入れると折りに触れてあなたの元を訪れる生涯の友人・恋人となります。
生涯のパートナーをつくるのだから、こちらも心を開いて、植物から何を学びたいのかを伝える必要があります。食事などの制限は、修行者がたてるべき「植物への誓い」のようなものと考えられるでしょう。
プラント・マエストロとのコミュニケーションを通じ、なにを獲得し人生に生かしていくかはあなた次第です。植物の世界からみる「自分自身」は、一体どのようにうつるのでしょうか?
そこでみえた世界や獲得したものは、一生の記憶となり人生の大切な支えになっていくでしょう。