アマゾンでエスプレッソ#2:里帰りの準備(後編)
執筆者:矢吹 弓
先端技術の調査や製造業の市場戦略づくりなどを支援するフリーランスのコンサルタント。
’17にNATIVE SOONを共同で立ち上げ、ペルーのアマゾンと日本を往復しながら先住民のシャーマニズムや植物療法を調査しています。犬好き。
里帰り準備編 後編は、持ち物についてです。
今回は深い森へ長期で行く予定がないので、アウトドア関連装備は不要。
プカルパ近郊での暮らしを想定して、私が日本からもっていく必需品についてご紹介したいと思います。
アマゾン滞在、マイ必需品
私が日本から毎年買い足して持って行くのは、カメラ関連機材・アウトドアの衣類・本の三種類です。
これら必需品の総重量と相談しながら、スーツケースの隙間に日本食や現地からの供給リクエスト品を詰め込めるだけつめこんでいきます。
ちなみに、アマゾン1年目の最重要品はこれでした。
当時、森の中で半年ほど暮らしていて電気のある町にでれるのは1週間に1回程度。町にでたときにインターネットカフェでPCのみを充電して、その他はすべて太陽光で賄っていました。
(森をでるとき、太陽光パネルは友達のシャーマンにあげました。喜ばれた。)
ろうそくは現地にもたくさん売っていますが笑えるほど速攻で燃焼してしまうので、アウトドアのロングライフ版が重宝します。夜は何も見えないので、ヘッドライトも必需品です。
話が脱線しました。戻ります。
以下、アマゾンに長期滞在するときのマイ必需品三種について語ります。
① カメラ関連機材
カメラ関連機材はすべて日本から持って行きます。
さて、カメラ愛好者にとってアマゾンは最悪のコンディションです。多湿と砂埃。「折角カメラ買ったのに、気づいたらカビが映えていた泣。」とか「埃でAF動作がいかれてしまった…」なんてことがざらにあります。
私は、密封度の高いPELICANのカメラケースに乾燥剤を3つ入れて本体とレンズを保管しています。
眩しいですね、「信頼の日本製」。あなた様のおかげでアマゾンで写真がとれます。
ちなみに日本のカメラ愛好者に人気のエツミの乾燥剤。「取り替えの目安は6~12ヶ月」と書かれてますが、アマゾンではPELICANと併用しても約3ヶ月で湿気を吸ってパンパンになることを忘れることなかれ。
② アウトドアの衣類
アマゾン地域の天気予報をググることがあれば(どんな状況だ)、湿度に注目してみてください。
80%超えはざらで、99%とかになっている日もあることに気づくかと。
いつもぬるい温泉につかってる感じ。化粧水なくてもモイスチャー。つまり、洗濯物が乾きません。
アマゾンに通い出した1年目は、エコを気取って自然素材の洋服をたくさんもっていきましたが、結局、モンベルとユニクロの速乾服に落ち着きました。エコより実用性。デザインより速乾性です。
そして速乾服以上に必需品なのが、防寒服です。
アマゾン地域は日夜の温度差が激しい(特に森で顕著になる)のに、家は網戸張りの半野外状態がデフォルト。かつハイスペックな防寒服は簡単には手に入りません。
(写真は、師匠であるシャーマン・アルマンドの森の家。そもそも日本でいうところの「玄関」がない。自由で涼しくて最高だが、雨と虫と寒さにめちゃ弱い。しかし、今やこの手の家も少なくなっていて、特に植物でつくる屋根が貴重になっている。)
初夏の山でキャンプするのにうっかりメッシュテントを持ってきちゃって「ダウンあってまじ助かったわー」という感じになることうけあいなので、防寒服は必需品なのです。
③ 本
日本語の本は、大雨の日や暑すぎて外に出れない昼間さえも豊かにしてくれる貴重な娯楽です。重量の制限もあるので、毎年時間をかけて厳選しています。
アマゾンに通い始めた1・2年目は、森の中での修行がメインだったこともあり知識が邪魔になるのが嫌で、チベット聖者たちの本や手塚治虫さんのブッダを愛読していました(形から入る派)。
余談ですが、アマゾンの森でよむチベット聖者たちの書とブッダは最高です。
鳥や動物たちの声が木霊する真っ暗な夜、蚊帳の内部まで侵入してくる小虫と格闘しながらこれらの本を読みふけったあの日々は、30代にして訪れたまぎれもない青春でした。
3年目となる今回、私がチョイスしたのは7冊。ドゥールズ系の現代思想とその系譜にある人類学が多めです。
というのも、アマゾンに通いだしてからドゥールズが私の世界に現れては消えてをくりかえすので、意を決し読んでみて発見したのは、アマゾンのシャーマンのことを説明しているのかと錯覚するほどのエッセンスが本の中に散りばめてあったことです。
後に知ったのですが、人類学のレヴィ=ストロースからドゥールズに至る思想史の枠組みとアマゾン先住民分析のマリアージュは、人類学における金脈なんですね。
アマゾンの先住民研究をベースに「多自然主義」を唱えるヴィヴェイロス・デ・カストロというブラジル人の人類学者がその流れの代表格。エドゥアルド・コーンは「その一門」なんだそうです(「森は考える」より)。
先住民の哲学と現代社会の融合に興味がある自分にとって、ドゥールズとの出会いは必然だったんですね。
意図せずして文化人類学のいちメインストリームに合流していたので、この支流にのったままアマゾンへむかう次第です。
あとは山口昌男先生の「知の祝祭」。文化の中心と周縁に関する人類学の書ですが、気になった目次をひくと「今日のトリックスター論」「蛇の宇宙誌」「制外者の神話論的起源」「祭りと神 対立の宇宙論」「コラージュとしての伝記」などなど。個人的に、嬉しくて笑いがとまらなくなる主題。目次だけでその圧倒的センスが伝わってきます。
本書から、「今日のトリックスター論」の一節を少しだけご紹介してみましょう。
本章では、人類学者・ジョン・マーシャルの製作した四人のブッシュマンの記録映画「狩人」をテキストに、人類史の展望を描いたウィリアム・アーヴィン・トンプソンによるモデルが引用されています。
トンプソンは、文明の移行に伴う職能のタイプの変化とそれらがもたらす権力の均衡を構造的に描き出します。原始的社会における中心的役割を担う職能として「頭目、狩人、シャーマン」を措定しながら、これら権力へのカウンターパートとしての「道化」の役割を、人類史的な観点から分析するのです。
山口先生は、このモデルを皮切りに様々な論者のトリックスター論を縦横無尽に引用しながら、ツッコミの力学としての彼らの役割を露わにしています。
トンプソンのモデルでは、シャーマンの役割が科学者に置き換わっていることを図示してますね。私個人のことを考えると、狩人と道化の領域をゆるく行き来しながら、シャーマン的な力学とのバランスをとっている感じですが皆さんはいかがでしょうか。
続いて、荒川修作さんと小林康夫先生の対談による「幽霊の真理 絶対自由に立ち向かうために」。荒川さんのコトバは、シャーマンたちが植物を通じて接続する身体的なリアリティを伴う意味のある世界をつかまえるための手引きになるんじゃないかという直感があって、今回読むのを楽しみにしています。
(写真左:「知の祝祭:今日のトリックスター論」より/ 写真右:「幽霊の真理 絶対自由に立ち向かうために」)
あとは、「ピダハン」と環世界的な知覚を説く「野生の知能」をチョイスしました。これにベイトソン「精神の生態学」とバーナード・ルドフスキー「建築家なしの建築」あたりも足したいところですが、流石に広げすぎかつ重量オーバーな感もあるので7冊にとどめました。
そもそも、日本にいるときは面白いと思っても、アマゾンにいるとページが進まないということがよくあります。アニミズムが本の中ではなく目の前で展開する毎日にあって、何が琴線に触れるかは毎年未知数なのです。
精霊との接続について話すこと、見た夢のシンボルを語ること、見えない力を感じていること。アマゾンではすべてが日常。今年はどんなものと接続し、何をつかまえるのでしょう。
さて、こんなところで里帰り準備編は完結。次回は、家づくりの話をしようと思っています。 それでは、また。
NATIVE SOON…